仏暦の使用

日本では、今年の5月に改元される元号と西暦が併用されています。

元号は、中国を起源とし日本を含むアジア東部において用いられてきた紀年法の一種です。

中国では、前漢の武帝の治世・紀元前115年頃に、統治の初年さかのぼって「建元」という元号が創始され、それ以降、清の時代まで用いられましたが、1911年に辛亥革命によって清が倒れると元号は廃止されました。

その後、各省政府は当初、革命派の黄帝紀元を用いていましたが、これもまた帝王在位による紀年法であることから共和制にはなじまないという理由で、中華民国建国に際し1912年を中華民国元年(略して民国元年)とする「民国紀元」が定められました。

さらに1916年に袁世凱が帝制(中華帝国)を敷いた時には「洪憲」の元号を建てました。

ただし、清室優待条件によって宣統帝溥儀は紫禁城で従来通りの生活が保障されており、宮廷内部では「宣統」元号が引き続き使用されていました。

1932年に満州国が建国されると「大同」と建元し、1934年に溥儀が皇帝に即位すると「康徳」と改元され、1945年の満州国の滅亡で再び元号は廃止されました。

現在、中華人民共和国では「公元」という名称で西暦が採用されています。

日本では、『日本書紀』によれば、大化の改新(645年)の時に「大化」が用いられたのが最初であるとされています。

けれども、まだ7世紀後半は元号よりも干支の使用が主流だったようで、当時使われた木簡の分析によると、元号の使用は確認されていません。

文武天皇5年(701年)に「大宝」と建元し、以降、継続的に元号が用いられることになったものと思われます。

ただし、広く庶民にも年号が伝わるようになったのは、江戸時代になってからのことです。

西暦は、6世紀のローマの神学者ディオニュシウス・エクシグウスによって産出されたもので、イエス・キリストの生誕年の翌年を元年とします。

なお、普及したのは10世紀頃からで、ヨーロッパで一般化したのは15世紀以降といわれています。

ところで、私たちは日頃元号と西暦を適宜使い分けているのですが、国によっては独自の暦を使っていたりします。

その一つが、人口の約95%が仏教徒のタイです。

タイでは、1913年以降お釈迦さまが亡くなられた年を基準とする「仏歴」が公用の暦として使用されています。

一般に、お釈迦さまが亡くなられたのは紀元前544年とされていることから、その翌年を元年としています。

そのため、西暦に543年を足すとタイの仏歴になります。

したがって、2019年はタイ仏歴2562年ということになります。

また、仏歴はタイだけでなく、仏教徒の多いカンボジアやラオスでも用いられています。

この他、同じく仏教徒の多い、ミャンマーやスリランカでは、お釈迦さまが亡くなられた年を元年とする仏歴が用いられていますので、こちらは西暦に544年を足して、今年仏歴2563年となっています。

お釈迦さまに関する行事として日本では、4月8日が誕生を祝う灌仏会(花まつり)、12月8日が仏陀の悟りを開かれた成道会、2月15日が亡くなられた涅槃会などを挙げることができますが、イエス・キリストの生誕を祝うクリスマスほどには認知されておらず、一部の寺院や仏教系の保育園・幼稚園・子ども園などでささやかに行われているといった感じです。

一方、タイでは仏教にちなんだ祭りが多く、満月の日に行われています。

お釈迦さまの誕生を祝う「仏誕祭」は5月頃の満月の日で、その日は祝日になります。

この他、お釈迦さまが最初に説法をなさった「三宝節」、悟りの境地に達した1250人の弟子と一堂に会した出来事を祝う「万仏節」なども満月の日に行われています。

この他、旧正月「ソンクラーン」を祝う風習もあります。

ソンクラーンとは、太陽の軌道が12か月の周期を終え、新たに白羊宮(おひつじ座)に入る時期を祝う伝統行事です。

もともとは、仏像や仏塔、さらに年長者などの手に水を掛けてお清めをするという伝統的な風習が受け継がれて来たもので、一年で最も気温の上がる季節の暑さしのぎとしても親しまれてきました。

近年はそれが転じて、街で通行人同士が水を掛けあって楽しむ「水掛け祭り」として知られるようになり、バンコクはもちろん、各地で独自のイベントが開催され、これを目当てに多くの旅行者がタイを訪れるようになりました。

現在では、毎年4月13日~15日の3日間で行うものとされ、タイの祝日にも定められています。

冒頭述べたように、日本では元号と西暦の使用が定着しているので、さらに仏暦の使用を…とまでは言いません。

けれども、本来の趣旨とは大きく逸脱・変容している感もありますがイエス・キリストの生誕を祝うクリスマスが多くの人々に認知され生活習慣に組み込まれて定着しているように、お釈迦さまの誕生を祝う「花まつり(4月8日)」が、もっと多くの人々に知られ盛大にお祝いされるようになれば…と思うことです。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。