2019年9月法話 『人間だからこそ生き方に迷う』(前期)

船を作る上で最も欠かせないのが「復元力」と聞かせていただいたことがあります。どんなに速くても、どんなに小さなボートや大型客船であっても、共通して一番重要なことは、傾いた船体をまた元に戻す力を備えておくことです。

一見すると船は波の上に浮かんでいるようですが、海はいつも穏やかな状態ばかりではなく、時には波が立ち、時にはうねりを伴い、船はその都度大きく揺れ、左右に傾きます。

けれども、どんなに左右に傾いても、船は自然とまた元の位置に戻ろうとする力がはたらきます。これが船の持つ復元力であり、まさに要といえます。

私たちが生きるうえでも、この復元力というのは大切な一つの根幹となるのではないでしょうか。

生きるということには様々な出来事が生じます。楽しいことも辛いことも、喜びや悲しみも、嬉しいことも涙が流れることも、信じられないようなことが起こるのが私たちの人生でありましょう。ときには立ち直れないほどの大きな挫折や困難に直面し、まさに人生の荒波を受け、自分自身が転覆してしまいそうな状況はいつ起こってもおかしくないのかもしれません。

そのように、傾きかけた自分をまた元に戻す復元力、生きる力を持つこともまた大切でありましょう。自分の拠り所とするものは何か、自分の宗となる教えは何か、人生の土台となり、生きる基盤となるものを備えておく。

時には生き方に迷い、風に流されるようにそのときの感情や気持ちに大きく左右されながら生きる私にこそ仏さまは私の指針となり、時には復元力となって私を導いてくださっています。