趣味の音楽を聴く際、周囲を気にせず自分の好きな音量で聴けることから、イヤホンを使うことがよくあります。移動中をはじめいろいろな場所で手軽に音楽を楽しめるのは良いのですが、ひとつだけ困っていることがあります。それは、いざ使おうとするとコードが絡んでしまっていることがよくあるということです。すぐに聴きたくても、絡んだコードほどくのに手間がかかり、「またか…」と思いながらも、無理にほどこうとすると断線などの故障につながりかねないので、丁寧にほどくように心がけています。
また、家ではデスクトップタイプのパソコンを使っているのですが、その近くにアイポッドを置いてイヤホンで音楽を聴きながら作業することがあります。不思議に思うのは、そのコードも絡み合っていることがよくあるということです。
以前、母から「ネックレスの紐が絡み合っているので、ほどいてほしい」と頼まれてほどくことがあったのですが、その時も「よくここまで複雑に絡み合ったものだ…」などと思いながら、ちぎったりしないように、根気よくほぐしていました。
なぜ、イヤホンコードをはじめとして紐類は気がつけば絡み合ってしまっているのでしょうか。実は、数学的理論によれば、むしろ「コードが絡むことは極めて自然であることが、数学的に証明されている」のだそうです。「ひもの結び方がどれくらいあるか」といった問題は、数学の分野では「結び目理論」と呼ばれており、100年以上の歴史があるそうです。しかも、日本は世界でも知られた研究者を輩出しているのだそうです。
ちなみに、「結び目理論」とは、紐の結び目を数学的に表現し研究する学問で、低次元位相幾何学の1種。組合せ的位相幾何学や代数的位相幾何学とも関連が深いそうです。たとえば日常、靴の紐などを蝶結びするとき、わずかな違いで縦結びになったり横結びになったりすることがあります。このようなとき、結び目理論では、紐の両端をつないで輪の形にすることで、これらの結び目が図形としてどのように異なるか(あるいは同じものなのか)ということを数学的に明らかにすることができるそうです。
そういえば、救急車のサイレンの音が遠くから近付いてくる時と、遠ざかって行く時の音に高低差があることは誰もが感じていると思いまますが、高校の物理の時間、それをドップラー効果(音源が移動しながら音を発するとき、進行方向に進む音は波長が短くなり、 反対に進行方向と逆方向に進む音は波長が長くなる。音速が一定ならば波長と周波数は反比例の関係にあるので、 進行方向に進む音は周波数が高く、進行方向と逆方向に進む音は周波数が低くなる)といい、しかもそれを計算式で説明することができることを知り、大変興味深く感じたものです。
今回、「なぜ、コードは自然と絡み合うのか」ということに疑問を覚え、調べてみると「結び目理論」があることを知ったわけですが、その理論によれば「容器の中に十分に長いひもが入っていると結び目ができている確率は高く、さらにひもの長さが長くなるほどその確率は100%に近づく」のだそうです。しかもこれは、すでに数学的に証明されています。原因は「自由度」で、ひもが短いと結び目ができにくくなるようです。また「太さが1㎝の紐だと、15.66㎝以上の長さがないと結び目を作ることはできない」という定理もあります。つまり、太さが数㎜で長さが1m程度もあるイヤホンは、数学的にも結び目がとてもできやすいというわけです。
また「両端が固定されておらず、振動や揺れでコードが動きやすい状況になっているほど絡む確率は高い」ということですが、それはコードが自由に動き回ることで自然に結び目ができてしまうからです。つまり「カバンの中にイヤホンを無造作に入れて持ち歩く」という状況は、「コードに結び目が極めてできやすい状況」ということになります。そうすると、コードが絡み合っているのは全然不思議なことではなく、むしろ当然のことだと言えます。
でも、すぐに音楽を聴きたいのに、コードが絡み合っているのは面倒なものです。では、どうしたらコードは絡みにくくなるのでしょうか。それは、「コードが動く自由度をできるだけ減らすことが、数学的には絡みを軽減する有効な処方箋のひとつになる」のだそうてず。具体的には、「両端を固定してコードを巻き付けると自由度が減り、結び目はできにくくなる」そうです。つまり、「両端を固定し、コード全体を何かに巻き付けておく」だけで、動きの自由度を大幅に減らすことができるということになります。そういえば、無造作に入れるとコードが絡み合っているので、最近カバンに入れる時は、イヤホンコードをアイポッドの本体にグルグル巻にしておくと、コードが絡み合うことはなくなりました。これが、数学理論から導き出せる解決法ということになるそうですから、実は感覚的に同じ結論にたどり着いていたということになりますが、紐類が絡み合うことが数学的に証明されることが分かり、かつてドップラー効果を知った時のことを懐かしく思い出したことでした。