2021年9月法話 『帰去来 大切な人たちの待つ浄土へ』(後期)

エピソード(1) おかえりNちゃん

ウィリアムズ症候群(※)のNさんは

年中4歳児として入園してきました。

ウィリアムズ症候群の特徴で

人懐っこく、クラスのお友だちはもちろん、

ほかのクラスのお友だちにもよく話しかけていました。

 

ただ、苦手なこともあり、

トイレに行くのが遅れて

おしっこを漏らしてしまうことがよくありました。

また、よくお話をしてくれるのですが、

言っていることがわかりにくいこともありました。

そして、

お部屋でみんなで一緒に活動するときに

お部屋を飛び出してしまうこともありました。

 

クラスのお友だちは、最初はびっくりしていましたが、

一緒に生活をするうちに

Nさんのことがよくわかってきて、

できないことは手伝い、

お話が分からないときは、丁寧に何度も聞き、

お部屋を出ていくときには、迎えに行くようになりました。

 

だんだんとクラスの中でもNちゃんは

特別な存在ではなくなっていきました。

 

そんなある日、Nさんがまたまたお部屋を出て行ってしまいました。

でも、その日は誰も迎えに行きません。

しばらくすると、Nさんがひとりでお部屋に帰ってきました。

そしてNさんが自分の場所に座ったときに、クラスのお友だちが、

「おかえりNちゃん。待ってたよ」と声をかけました。

「ただいま」とは言いませんでしたが、

Nさんは、にこにこして嬉しそうでした。

自分の帰る場所があり、

自分を待ってくれている人がいることは

なんとあったかいことでしょう。

 

エピソード(2) ここはRくんの場所だよ

Rさんは年中4歳児として入園してきました。

Rさんは足が不自由で、

小さな体で小さな車椅子で、バリアだらけの園ではありましたが

一緒に生活しているクラスのお友だちに手伝ってもらいながら

園生活を送っていました。

 

年長の夏から秋にかけて、

Rさんは足の手術のため、長期間休園しました。

秋には運動会があり、

運動会当日には手術が終わっているので参加できるのですが、

お休みをしている間には練習ができません。

 

運動会を間近に控えたある日のことです。

年長組は園庭でちょうどダンスの練習をしていました。

その様子を見ていると、

子どもたちの声が聞こえてきました。

「ここはRくんの場所だから間を空けておくんだよ」

「Rくん車いすだから、これくらい空けようよ」

 

ここを空けておきなさいと、担任の先生が言ったわけではないのです。

今はいないRさんですが、

子どもたちの中にいつも一緒にいるんですね。

「ここは彼の場所なんだよ。彼はいつも一緒だよ」と。

 

運動会当日、お友だちと一生懸命ダンスするRさんの

はにかんだ笑顔が印象的でした。

 

自分を待ってくれている人たちがいて

帰るべき自分の場所があるということは

なんと幸せなことでしょう。

 

そして、私たち…。

 

私たちはみんな帰る世界を恵まれています。

阿弥陀如来さまのお浄土です。

そしてお浄土では、先だっていかれた大切な方々が

「おかえり」「ここはあなたの場所だよ」

と、待っていてくださいます。

なんとあたたかく、幸せなことでしょうか。

 

※ウィリアムズ症候群はまれな遺伝子疾患であり、知的障害や心臓疾患などを伴います。エルフのような独特の顔つきが特徴です。医師J.C.P.ウィリアムズにより報告されました。疾患の原因は7番染色体上の遺伝子欠失です。知的障害がありますが言語は比較的良好に発達することが知られており、知らない人にも陽気に多弁に話しかけます。