里道、道なき道の導くもの

この度、私が住職としてお預かりしているお寺の本堂を新しく再建することとなり、ここ数年準備を進めているところです。

現在の本堂は明治32年にご門徒みなさまの手によって建てられました。当時まだ1円や1銭という時代の中、地域総出で御懇志を募り、建設も自分たちの手で行い、まさに自分たちのお寺として築いてこられたご門徒のみなさまの本堂です。

当時の方々のお名前が刻まれる本堂も既に120年を越え、長年の雨風や幾度の台風、桜島の降灰などを凌ぎ、また戦前、戦中と激動する社会の変遷を耐え抜きながら、御本尊、阿弥陀如来様を中心に多くのご門徒のみなさまをお迎えしてきました。

しかし、押し寄せる老朽化の波は避けられず、目に見えて至る所に傷みも生じる中、門徒総代、ご門徒のみなさまの中にも本堂再建の気運が高まり、この度の再建へと至りました。

今回の本堂再建事業を進める中で、まず大きな課題となったのが、「里道(りどう)」の存在です。今回、お寺の建つ土地や地番等を調査している過程で、お寺の境内地の中を里道が通っていることが明らかとなりました。

里道とは、ごく簡単に言うと昔の農道や山道などで、今から140年以上も前、現在地がお寺として整備される以前のこの近辺は、田畑が広がり、裏山の高台へ続くあぜ道が通っていたとのこと。

現在この里道は、実際には存在していないのですが、法務局をはじめとする登記上の公的な図面には、この里道が今も残っています。そのため、既に道はなくても、公的な図面に里道の記載が残る以上、この里道は市町村等の行政側が管轄・所有するものとなるので、この里道にかかるところに建物等を建てることはできません。

これを解消すべく、境内地に残る里道部分の売払い手続きに向けて処理を進めている段階にありますが、この里道はお寺だけに関係するものではなく、境内を離れたその先にも里道は続いていきますから、隣接する近隣住民の方々や市の担当者とも境界の立ち会いや協議をしていかなければなりません。

新しい本堂の建築以前に、土地や里道の件でこんなにも足踏みをするとは思ってもみませんでした。けれども、私にとってはまさに足下を見直すよい機会ともなりました。

新しくお寺を建て替えるということの重み、まずはその礎となる、それに耐えうるだけの地盤、心の基盤をしっかりと整え、一つ一つの課題と丁寧に向き合っていくことの大切さを教えられているようでもありました。

「この生きている一生のうちに本堂再建に立ち会えるなんて、なんと仕合わせなことか」

と言われた一人のご門徒さんの言葉が忘れられません。

焦らず、丁寧に足踏みしながら地を固め、道ができる大変さを本堂の再建と重ねながら、この尊い歩みを進めていこうと思います。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。