膝の痛み

自坊のご門徒さんに伊藤さん(仮名)と言う方がいらっしゃいます。もう90歳に近いのですが、今でも積極的にお寺の活動に携わって下さり、また法要や法事の時にも欠かさずお参りして下さるとても有り難いご門徒さんです。

いつも元気に見える伊藤さんなのですが、実は少し前まで歩くのも辛かったことを知りました。原因は膝の痛みで、変形性膝関節症と呼ばれる病気を患っていたそうです。この病気は、膝の関節軟骨が変性(軟化や亀裂)し、すり減るために起こるそうです。歩行や階段の昇り降り、座った状態からの立ち上がりなど膝を使う動きに対して痛みを伴い、生活に支障が出てくるといいます。

とても困った病気なのですが、今では治療法も確立されているとききます。その治療法には、保存療法と手術療法があり、初期の症状であれば保存療法(生活習慣の改善)になり、症状が進んでいれば手術療法になるとのことでした。伊藤さんは症状が進行していたため、手術療法が必要でした。人工膝関節による関節の再形成をする手術だそうです。破壊された関節表面に人工材料をかぶせる事により、痛みのない関節を再建することが出来ると言います。伊藤さんは、人工物を身体に入れることに対して抵抗があったのですが、この痛みが引くのであればと思い、手術を受けられます。そして、手術後は膝の痛みが驚くほど引いたそうです。今では、歩いても、階段を昇っても、椅子から立ち上がっても、ほとんど痛みを感じなくなり、生活が一変したと言います。

伊藤さんは、もう手術が終わって5年以上の年月が経っているのですが、今でも毎年実行していることの一つに手術をして下さった病院への寄付があるそうです。それは膝の痛みが引いたお礼という事が一つ、また同じ痛みを抱えている人が少しでも良くなるようにという願いを込めてしているそうです。とても有り難い事だと思いました。

仏教には報恩という言葉があります。恩に報いるという事であり、ここでの恩とは、自分が為された事を知ることを言います。毎日の生活の中で歩いたり、階段を昇ったり、椅子から立ち上がったり、どれも当たり前に行っていることかもしれません、しかし伊藤さんにとっては、そのどれもが当たり前ではなく、膝が問題なく動いているという上で成り立つ奇跡的な出来事なのだと受け止めておられるように思いました。

自分を超えた大きなはたらきの上に生活を頂いていることを知らされた上は、そのことに報いる生活が始まるのではないかと教えられるような思いです。私自身これからの生活の中で頂いているものの大きさを知っていく営みを歩ませて頂ければと思う事です。 合掌。

【確認事項】このページは、鹿児島教区の若手僧侶が「日頃考えていることやご門徒の方々にお伝えしたいことを発表する場がほしい」との要望を受けて鹿児島教区懇談会が提供しているスペースです。したがって、掲載内容がそのまま鹿児島教区懇談会の総意ではないことを付記しておきます。