======ご講師紹介======
中村洋志さん(鹿児島市立田上小学校校長)
☆ 演題 「歳を重ねるごとに美しく」
ご講師は、鹿児島市立田上小学校校長の中村洋志さんです。数ある鹿児島の小学校長の中でも異彩を放つ方で、元気印の校長先生として鹿児島県の教育界で注目されている方です。
中村さんは、昭和四十五年に宮崎大学教育学部を卒業後、鹿児島大学付属小学校などに教諭として勤務。曽於教育事務所指導主事、教育庁学校教育課指導監査などを経て、平成十八年に鹿児島市田上小学校の校長に就任。現在に至ります。
著書に『いのちの輝き』『子どもと楽しむ図形の学習』などがあります。
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十数年前だと思いますけど、テレビを見ておりましたら、若い二十歳前後の女性に
「あなたの理想の男性はどんな男性ですか」
とインタビューする番組がありました。
尋ねられた女性は
「ハンサムでお金持ちで、背がすらっとして、優しくて」
と自分の理想をずらっと並べました。
私は自分に当てはまるものが一つでもないかと、ドキドキしながらそのテレビを見ていました。
すると、その時アナウンサーが私の言いたいことをズバっと言ってくれました。
「もしそんな理想の男性がいたら、その人はあなたを選ぶと思いますか」。
私は思わずテレビの前で拍手してしまいました。
選ぶはずがないんです。
「自分の要求だけつきつける。
もちろん、そういう理想があってもいいんですけど、選ばれるためには自分自身の内面的な豊かさを求めていかないと、決して対象にはならないということだろうと思います。
大人の役割について、「しつけ」という言葉があります。
この「しつけ」という言葉は、最近はなにか古くさいことをいうようにとらえられておりますが、私の勤務する田上小学校では「しつけ」を非常に大事にしています。
「しつけ」というのは漢字で「身を美しく」と書きますよね。
でも本当は違ったんです。
もともとは「仕付」と書いて「しつけ」と読んでいたんです。
これは何をしつけるかといいますと、田んぼです。
田植えをするとき、日本では稲をきちんと並べてきれいに植えていきますよね。
何センチかごとに印をつけて植えていきます。
あるいは裁縫をするときに仮縫いをしますが、そのときに仮縫いの針を打っていきます。
それが「しつけ」の糸できちんと方向付けをするということであります。
ところが、いつの間にか「躾」という文字に変わってしまい、意味も
ハンカチを持っているかどうか、
爪は切ってあるか、
鼻が垂れていないか
といった外面的な美しさ、つまり身を美しくするのが「しつけ」だというように、とらえ方も変わっていきました。
しかし「しつけ」というのは、方向付けをするということが本来の意味でございます。
だから今、田上小学校では本来の意味のしつけに戻していこうという話をしているところであります。
方向付けをするというのはどのようなことでしょうか。
例えば、一、二年の頃だと、算数の問題なんか親もよく分かります。
だから、子どもに聞かれなくても、親の方から一生懸命教えてやることが出来ます。
でもそれが三、四年生になると少し難しくなり、五、六年生になると、親の解けないような問題が出てきます。
そうなると、子どもが台所へ行って、
「お母さん、これはどうするの」
と聞いても
「忙しいから後にしなさい」
とか、わからないとは言えないので
「うるさい」
とか怒ったりするんですよね。
でも、私はいつも言うのですが、利口な親は早くしつけをしていきます。
親が教えられるころから、
「お母さん、この計算がわからない、教えて」
と聞かれたら、
「これは、あの先生が得意なんだよ」
「あそこのお兄ちゃんに聞いてごらん」
「図書室で調べてごらん」
と言ったり、
「お母さん、この漢字がわからない」
と聞かれたら
「辞書を引いてごらん」
「隣のおじさんが漢字博士なんだよ。聞いてごらん」
と言って、方向付けをするのが「しつけ」であります。