「子どもに語るいのち」(下旬) いのちのバトン

 その私の授業で、使った教材で

『驚異の小宇宙 人体生命誕生』

という本があるんです。

これもNHKスペシャルでずっと以前に放送した番組なのですが、その中に、私たちのいのちっていうのは、お父さんの持っていた三億個の精子とたった一個の卵子が出会って生まれてきたのだということが、とても分かりやすく書いてあります。

 例えば、子宮から卵管までたどり着ける精子は、約三億個の中の約六万個なのだそうです。

さらに卵子の所までたどり着けるのはせいぜい百万個ほどの精子が一個の卵子の中に入り込もうとして一生懸命がんばるんですけど、結局一個だけしか入り込むことができない。

残りの精子は、受精すことができないんです。

 そうやって、受精した受精卵は、また卵管をずっと戻ってきて子宮の中に着床します。

いわゆる十月十日ですね。

大事に大事に育てられて生まれてくるんです。

そこでちょっと興味深いのが、受精後三十二日目からのたった一週間で、生命の記憶をたどると言われているのです。

つまり、魚みたいにヒレや尻尾がある時期を経て、そして約二百八十日の間に二千倍の大きさになると言われています。

この本の中では、赤ちゃんが東京ドームの中で寝ている写真があります。

なぜかというと、受精卵っていうのは顕微鏡で見ないと見えないぐらい小さい物なんです。

それを二千倍にして約三千グラム、約五十センチの新生児になって生まれてくるんですけれども、二千倍っていうのがなかなか実感できないと言うので、受精卵の大きさを野球ボールの大きさに譬えたら、野球ボールを二千個並べたら東京ドームの屋根ぐらいの大きさになるんだというのが書いてあるのです。

それで子どもたちは

「ああそうか、野球ボールが東京ドームの屋根ぐらいの大きさになって自分は生まれてきたんだ。

だからお母さんってすごいんだな」

っていうふうに思ったんです。

女の子たちには、そういうふうにして、あなたたちは将来赤ちゃんを育てなきゃいけないんだから、今ダイエットしてる場合じゃないんだよっていうふうに言ってるんです。

その一つひとつのいのちは直接お父さんお母さんからもらったんですね。

相田みつをさんが

「いのちのバトン」

という詩にしておられます。

父と母で二人、直接命をもらったのはお父さんお母さん二人からいのちをもらったんです。

でもそのお父さんお母さんは、そのまた両親からいのちをもらったので、自分にいのちをくれた人は父と母とその両親の四人。

そのまた両親で八人。

こうして数えてゆくと、十代前では千二十四人になるそうです。

二十代前までさかのぼると、いったいどれぐらいになると思いますか。

小学生に聞くと、二千二十四人というふうに答えてくれるんですけど、実はなんと百万人を超すんです。

過去無量の

 いのちのバトンを

受け継いで

  いま

  ここに

  自分の番を生きている

  それが 

  貴方の“いのち”です

  それが

  私の“いのち”です

というように、相田みつをさんは詠っています。

「こんなにたくさんの、本当に数えきれないぐらいのたくさんの人がいのちのバトンを運んでくれたから、みなさんにいのちのバトンが渡ったんだよ」

と、伝えているんです。