本堂でのお参りの際に、
「ありがとうの反対語は何ですか?」
とおたずねしてみることがあります。
実はこのことを問いかけるようになったのは、こんなことがあったからです。
だいぶ前のことになりますが、幼稚園の教員と話をしていた時のことです。
その教員が担任をしている年長組の子どもたちと一緒に、本願寺鹿児島別院に参拝した時のことです。
お話をして下さった僧侶の方が子どもたちに、
「みなさんはありがとうという言葉は知っていますね?では、ありがとうの反対の言葉は何でしょうか?」
と尋ねられたのです。
その時にその僧侶の方は、すぐに
「それはね、当たり前という言葉だよ」
と教えてくださいました。
教員は
「今まで考えたこともなかったけれども、ありがとうの反対は当たり前だと教えていただいて、それから子どもたちとも、いろんな場面で、『当たり前じゃないよね、当たり前なんかないんだよね、全部ありがとうだよね』と確認しあって生活することができました。とてもとても大切なことを教えてもらったと思っています」
と語りました。
私は、「今まで考えたこともなかったけれども」という教員の言葉が印象深く残ったので、お参りの時にたずねてみることにしたのです。
実際に「ありがとう」の反対の言葉は何だと思われますか?とお尋ねしてみると、首をかしげる方が多いです。
確かに、ありがとうの反対はと言われるとなかなかぴんときませんが、一言、平仮名ではなくて漢字で考えてみてくださいというと、気づく方も出てきます。
ありがとうは、「有難う」・・つまり有ることが難しいという言葉です。
あなたに感謝しますという意味だけでなく、私が今ここにいることはどんなに「有ることが難しい」ことであったか、この出会いがどんなに難しいことであったかという、驚き・感動の言葉ですね。
先日、本堂でのお参りに小学校3年生の女の子が家族一緒にお参りしていました。
私はこのお話をしながら、その女の子といっしょに「掛け算」をしてみました。
「2×2は4だね。4×2は8だね。8×2は16、16×2は32・・。」
3年生ですのであまり数が大きくなるとできませんでしたが、ある程度のところまでは一緒に答えを出しました。
そしてこの計算は何なのかを説明しました。
「お父さんとお母さんが二人。そのお父さんとお母さんにもお父さんとお母さんがいるから2×2で4人のおじいちゃん、おばあちゃんでしょ。そしたらひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは4×2で8人だね。10代さかのぼると1,024人、20代だと1,048,576人、30代だと107,374,1824人の親がいるという計算になります。そしてその中の一人でも欠けると、私はここにはいないんですね」。
ここら辺の話になったら、小学生の女の子よりもお父さん、お母さんが、「なるほど」という顔になっていました。
いのちの流れということを、ひとつの計算でやってみるだけで「有難さ」がわかります。
でも、これはあくまでも数としての計算であって、その一人一人が、それぞれの時代環境の中で、かけがえない人生を歩まれて、そして私がここにいると思うと感慨深いですし、いのちの大きさを思います。
私が今ここにいることは、当たり前なんかじゃないのですね。
この世の中に、当たり前って何ひとつなかった、すべてが有ること難し(ありがとう)なんですね。
もうしばらく、本堂でいろんな方にこの問いを投げかけてみようかなと思っています。