徳之島生まれの落語家が楽しい“噺”で笑顔をお届け(下旬)落語も人生も、後の方がおもしろい

せっかくなんで、長生きの話でもしましょうか。

徳之島出身の泉重千代(いずみしげちよ)さんをご存じですか。

120歳まで生きはった人です。

実は私、泉重千代さんと親戚ですねん。

せやから長生きの家系なんですわ。

昔、重千代さんに

「お年いってしんどい、死ぬのが怖いとか思わないですか」

と聞いたこどあるんです。

すると、

「ああん、馬鹿かお前は。若いときが一番ええと思うじゃろ。ところがな、年いったらいったなりの楽しみ方というのがあるんだ。おまえいくつになった」

と言われ、

「30です」と答えたら、

「10代とは違う楽しみがあるじゃろう。わしらもそうじゃよ。年いったら体は動かんけど、動かんなりに楽しみ方がある。それはその世代で変わるものじゃ。年いったら楽しいことはないじゃろうと思うけど、えらい間違いじゃ」

って怒られましたね。

寄席の世界と人生は似てるなぁって重千代さんとしゃべって感じました。

寄席は10組あります。

最初の人を「前座」っていうんですよ。

2番目は「二つ目」ですね。

途中で「仲トリ」などがあり、一番最後に出てくる最も面白い人のことを「トリ」っていいます。

その前に出る人は「モタレ」、その一つ前に出る人のことを「シバリ」っていいます。

寄席の世界、お客さんは10組のうち7組ぐらい落語を聞くと、退屈してきて

「面白ないな。もう家帰って洗濯して、今晩のおかず何しようかな」

とか頭の中で考えだすんです。

しかし、その帰ろうと立ちかけているのを、文字通り芸の力で座席に縛り付けるから「シバリ」なんですね。

ほんで

「おお、やっぱり後に出る芸人はおもろいやないか」

となって、ゆったりともれたかかるから「モタレ」なんです。

最後に、人気と実力を兼ね備えた人が出てきます。

鶴瓶さんや志の輔さん、文枝師匠、そしてうちの文珍師匠ですね。

最後、トリモチのようにビチーッとお客さんを動かさないからトリやと言われています。

重千代さんが「後へ行けば行くほど楽しい」と言わはったんは、10代の頃なんかもう無駄が多過ぎて、悩まんでええことで悩みますわな。

間があって、70代からはシバリ、モタレ。

90代から100まではもうトリ。

この後超えたら大トリの時代でございます。

人生なんにも年いって悩んだり落ち込んだり悔やむことはないんだ、ということを重千代さんを見て思いました。

みなさんも、シバリ、モタレ、トリ。

これを人生の集大成として頑張っていただきたいと思います。