「快老のすすめ」(上旬)世界一の長寿国

ご講師:斉藤茂太さん(精神科医)

「アルツハイマー」というのは、1912年に亡くなったドイツの学者の名前で、20世紀初め頃に活躍した人です。

そのアルツハイマー先生の書いた論文がわが家にあるんですよ。

なぜかと言いますと、私の父がドイツに留学したのは1922年ですから、当時はすでにアルツハイマー先生は亡くなって、父は直接会ったことはないんですけど、土産としてアルツハイマー先生の書いた論文を持ち帰ったと思うんです。

ところが、戦時にわが家や空襲で丸焼けになってしまうのですが、そのひとつき前に父は疎開していたので、おそらくその時に持って行ったんでしょうね。

それで論文が焼けずに済みまして、今わが家にあるんですけども、本当にアルツハイマーという学者は偉い方で、20世紀の初めごろには、いくらドイツでも百歳なんて方はいなかったですし、ほとんど40から50歳で亡くなる時代に、人間は年をとると脳の細胞が減ってきて、気泡状態が起こるということを予測した学者なんです。

現在、日本で百歳以上の方は何名いると思われますか。

1936年では113名しかいなかったんです。

ところが今はなんと15000名を突破しました。

あれよという間に、日本は世界一の長寿国になってしまった。

なぜ1936年に百歳以上が113名ということを覚えているのかと言いますと、その年に私は初めてソビエト連邦に視察を許されたんです。

それまで何回か視察許可の書類を提出しても全部「ノー」と言われて(ロシア語で言うと「ニエット」ですが)、ずっと却下されていたんです。

それでやっと許されたその年に初めてソビエトに渡ったんですが、そこで「日本人の百歳以上は113名」ということを話さなければならなかったので覚えているんです。

現在、百歳以上の方が15000名を突破したということはすばらしいことだと思うんです、ところが、一方で赤ちゃんの数が減り、お母さん一人に付き1.3名、もう15年もたつと、日本の労働人口がなくなってお年寄りばかりになってします。

なかなか隠居できず引っ込めないということで、百歳になっても若い人にかわって元気に労働しなければならないという事態が、私を含めてもうすでに始まっているのです。