こういう仕事をしておりますと災害、事件、事故とさまざまな場面に出くわします。
最近では残酷な少年の事件、若い方が生き埋めにしたとか、河川敷でナイフで斬りつけたとか、やりきれない事件等がありました。
究極的に、どういう社会が素晴らしい社会なのかと考えこんでしまいます。
アメリカのようにとてつもない軍事力をもっている国が素晴らしいのか、そんなに力に頼った国が素晴らしいとは決して思わない。
じゃあ、金持ちの国が素晴らしいのかと、それも違う。
私が思う素晴らしい国の基準、それは、その国の今を生きている人たち、そこに存在する人々の一つひとつの命がどれほど大切にされているが、重んじられているか。
素晴らしい国か、そうでないかを決めるただ一つの基準はそこにあると考えます。
しかし、自分たちで大事にしようと思っていたって、天災もやってくれば、事故も発生します。
様々な不幸が私たちにいつ襲いかかってくるかわかりません。
だからこそ「そこにある命」をどうやって守っていくのかを常に真剣に考えなければいけないと。
先ほど「今年は節目の年だ」と申しあげましたが、もっと大きな節目の年でいえば、紛れもなく今年は戦後70年、節目の年です。
私は昭和20年生まれ、同じ年生まれに吉永小百合さんがいらっしゃいます。
吉永さんはボランティアで原爆史の朗読や、広島の原爆資料館の音声ガイドなど原爆とか戦後とかに関わっておられるのですが、なぜそんなにこだわるのですかとのインタビューに、昭和20年生まれだから、1945年は唯一、生まれてきた子より心ならずも命を落とした人の数が多かった。
だからこの年に生まれた自分たちは、他の年に生まれた人より成すべきことがあるはずと答えていらっしゃいました。
2年前、8月15日の終戦の特別番組の仕事で、私は喜界島と知覧特攻隊を取材いたしました。
知覧の特攻平和会館は、特攻の生き残り板津さんという方が、生き残ったことを恥じて生きた人生だったが、のちに特攻の母と呼ばれた鳥浜トメさんに『あなたが命長らえたということは、するべきことがあるから。
何か意味がある』と諭され、それから南の海に散った仲間たちの本当の姿・本当の心を伝えたいと1036人の遺影や資料を集めて、設立に尽力され、初代館長となられたのです。
特攻の若者達は、出撃前夜、富屋食堂で腹一杯ご飯を食べたあと自分の母親位の年齢のトメさんに『長生きしてください。
僕らの分まで生きてください。
この戦争が終わったらこの国は平和な国になるはず。
だから平和がくるまで生きてください』そう言い残して彼らは死んでいったと。
彼らこそ本当に平和を渇望していたのです。
天皇陛下バンザイとか、そんな美辞ではなくて、自分たちが死ぬことによって必ず戦争は終わると思っていた。
非常に聡明な若者達だったのです。
盲信的とか狂信的とかいう人もいますが、一番許せないのは、あの若者達のことを自爆テロと一緒にしたりすることと板津さんは言っておられました。
変な教育をするものだから、特攻というと自爆テロだという馬鹿がいる。
とんでもない話です。
私は少なくともこの70年間については、あの若者たちの残した言葉に嘘偽りのない国をつくってきたと、誇らしく思っております。
先ほど申しあげましたように、その国はいい国か、悪い国か、優れた国なのか、他の国に比べて誇れる国なのか、というのはそこにある命がどれだけ大事にされているかに尽きると思います。
そして、戦争こそがそこにある命を一番粗末にすると。
命を一番軽んじるのは、どんな災害でもどんな人災でもなく、私は人間が引き起こす戦争だと考えます。
今、私たちの国は何よりも命を大事にする素晴らしい国に向かっているのか、それとも過去に大きな誤りを犯したあの時期と同じ方向に今また向かい始めているのか。
沖縄の基地問題、辺野古や安全保障問題など、私たち一人ひとりが真剣に考え行動しなければならないと思います。
このハートフル講演会に足を運んでくださっている皆様方と改めて一緒に確認し合いたいところでありました。
私たちの国のこれまでの70年間の歴史というのは、世界史の中でも極めて素晴らしいものでした。
一つの国がこれだけ経済発展しながら、戦争という名のもとに一滴たりとも血を流させなかった。
にもかかわらず、今でも世界3位の経済大国という地位を占めている。
これほど私たちが世界に誇れることってないじゃないですか。
最初に申しあげたように、我が国は自然が美しく、生活環境が清潔であるが、一方で災害もいっぱいある。
だけど、東日本大震災で言われたように絆を大事にして、自然災害とも闘いながら肩を寄せあって生きていくこと。
私たちがこの国で、次の世代、その次の世代に何を残していくべきかといえば、そういう結いの心なのではないかと考えます。
そして、皆さま方と共に、そこにある命がひとつひとつ大事にされる世の中、国づくりをしていきたいと強く願っております。
何より私は思うのですが、家庭を犠牲にしてまでする仕事はないと。
世界中の人々が皆そう思えば戦争はキレイになくなるはず。