歴史をひもといてみますと、お寺は、能や落語、茶道や華道をはじめとした文化芸術の発信の場所としての側面を持っていました。また、地域の集会所としての役割も担っていました。そう、お寺はご門徒であるかないかにかかわらず、だれでも足を踏み入れていい場所だったんです。
しかし近年では、多くの人には法要儀式をおこなう場所としてしか認知されておらず、神社と違って「このお寺の門徒じゃないけど入っていいのかなぁ」などと、気軽に訪れがたい場所になっています。なおかつ宗教自体への関心が薄れている昨今、お寺自体の存続に危機感を覚えている関係者も少なくありません。
私のお寺でも、地域に開かれた場となるべく、誰でも足を運べる、参加できる取り組みをおこなっています。定期的には、俳句教室やコーラスサークル、そして月1回の小学生の集まりである「土曜サンガ」です。またお寺でコンサート等のイベントを年に数回開催しています。さらに春と秋には、地域のアーチストや商店と協同して、マルシェやコンサートを開催しております。
その土曜サンガに来ていたY君のお話をしたいと思います。Y君はお寺にゆかりのある法人が運営する学童保育に在籍していました。ご門徒ではないのですが、お寺から数分のご近所さんなので、夏休みにはラジオ体操と7時の鐘つきに毎朝通ってくれていました。学校がある日でも鐘つきにやって来る日もありました。そのY君とのやりとりです。
― :Y君はどうしてそんなに熱心に鐘をつきに来るの?鐘をついたらどんな感じがするの?
Y君:なんか心がモヤモヤするんだ。鐘をつくと心のモヤモヤがすっきりする。
またある日、Y君との会話です。
Y君:昨日、友だちのK君が、「ぼくの所には鐘の音は聞こえないよ」って言うんだ。だから今日は、もっと大きくたたきます!
―:そうなんだ。K君もお寺に来るから鐘のことは知っているもんね。K君にも聞こえるといいね!K君も夏休みは一緒に来れるといいね。
Y君:はい。自転車で一緒に来ます!
さらにある日の出来事。この日は内緒話をするような感じで話しかけてきました。
Y君:あの~、お話しがあるんだけど。
―:どうしたの?
Y君:夏休みとかって、お寺に宿題しに来てもいいですか?
―:うん、もちろん!
いろんな方々とご縁を結ぶイベントも必要でしょう。またさまざまな教室等をお寺で開くのも意義があることです。でも、お寺はY君のような子に安心した居場所を与えることができるような場所でもあって欲しいと思います。
そんなY君も今年は小学6年生。
今年は宿題しに来てくれるかな?