2019年11月法話 『報恩 ご恩を無駄にしないこと』(後期)

「経営の神様」の異名をもつ「松下幸之助」をご存知の方は多いでしょう。

ご存知ない方も「Panasonic(パナソニック)」の創業者と言えばお分かりになると思います。

そんな松下氏が、以下のように語られたことがあります。

感謝報恩の心を持つということは、人間にとってきわめて大事なことである。
いうまでもないことであるが、人間は自分一人の力で生きているのではない。いわゆる天地自然の恵みというか、人間生活に欠かすことのできないさまざまな物資が自然から与えられているのである。
また多くの人びとの物心両面にわたる労作というものがあって、はじめて自分の生活なり仕事というものが存在し得るのである。いいかえれば、自然の恵み、他の人びとの働きによって、自分が生きているわけである。
そういうことを知って、そこに深い感謝と喜びを味わい、そしてさらに、そうした自然の恵み、人びとの恩に対して報いていくという気持ちを持つことが大切だと思う。そういう心からは、いわば無限の活力とでもいうものが湧き起こってこよう。それが事をなしていく上で非常に大きな力となってくると思う。

自分は一人だけの力で生きていないということは、みんな知っています。

しかし知っているにも関わらず、自分のことばかりを考えて、他の事を顧みることをついつい疎かにしてしまうのが私です。

例えば食事について考えてみましょう。

先日、家族でレストランへ行った時のことです。

一通り食事が進み、ふと隣のテーブルが気になりました。隣には先に入られていたご家族が食後のコーヒーを飲まれているところでした。

気になったのは、テーブルのお皿に決して少量とはいえない食べ物が残されていることです。

落ち着いてからまた食べられるのかと思ったら、なんとそのまま帰って行かれました。

 

さて、この食べ残しはどうなるかというと、勿論廃棄処分です。

こうして、食べられるのに捨てられてします食品は、日本は年間600万トンを超え、大型トラックの10トン車に換算すると、毎日トラック約1,700台分の食品が廃棄されているそうです。

食品廃棄が多いことにより、経済も環境も社会にも様々な問題が発生していることを気にして生活している人はどれくらいいるでしょうか。

 

目の前の食べ物を「命」と思うことができない、そして私の前に食事として出てくるまでに、どれほどの働きがあったかに心を寄せることができないのが現代の私たちの日暮しです。

 

仏教の言葉に「少欲知足」という言葉があります。

私たちはすでに得られたものに対しては満足することができず、新たにもっといいものが欲しくなります。まだ得られていなものに対しては、それが手に入るよう欲する心が次々に沸き起こってきます。

だからこそ、今あることに感謝し「欲を少なくして足ることを知る」ことが大切なことです。

松下幸之助さんの言葉を聞くと、多くの人びとの物心両面にわたる労作というものがあって、はじめて自分の生活なり仕事というものが存在し得るのである。いいかえれば、自然の恵み、他の人びとの働きによって、自分が生きているということです。

 

私がこうして生きているのも、文句をいいながら仕事ができているのも、感動的な体験をできることも、名前も知らない誰かの働きがあり、見ることのできない自然の営みによってあることを少しでも考える時間が増えるよう、報恩の生活をお念仏と共に歩ませていただきたいものです。

合掌
南無阿弥陀仏