「認知症が教えてくれること」(中期) 年代ごとに異なる特異な能力と領域

私たちは筋肉の量も歳をとると落ち、50歳が境目です。上半身はわりと保たれますが、下半身の筋肉が落ちやすく、運動しないとどんどん落ちます。視力も落ち、だんだん見える範囲が狭くなります。そして、止まっているものに対する視力はそう落ちませんが、動いているものに対する視力が落ちます。ですから車の運転はある年齢が来たら卒業しないといけないと思います。

記憶力、言語能力、判断力、計算力、推考力、推論、空間認知力、知覚速度、これらも加齢によりどんどん落ちていきます。ただし、話を聞いて理解するというのは80歳を過ぎても大丈夫です。若者はなかなか他人のいうことを聞きません。年配者は若者の言い分を聞いてアドバイスしてあげるというような棲み分けをしたほうが良いのではないかと思います。18歳は記憶力がすごくよく、名前を記憶する能力は22歳がピークです。人の顔をみて覚えるというのは32歳がピークだそうです。集中力は43歳、感情認知力は48歳、新しいことを学んで理解する能力が50歳、語彙力は67歳。そ1して、幸せを感じる能力が一番高いのが74歳です。いろいろなものに感謝して幸せを感じとることは82歳が一番得意だと思います。このように若者の得意な領域と歳をとった方の得意な領域が異なるということです。ですから若者に負けないぞという気迫はいいのですが、若者と正面きって張り合うのはちょっと無茶かなと思います。不得意なところはがんばらないで、言語力、理解力、洞察力、批評力、想像力、自分で反省して行動を変える力、内省力、コミュニケーション力、こういう年配者が得意なところを生かしていくということが大切です。年配の人と若者がうまくコラボレーションすると、これからもっと良いものができるのではないかと思います。

孔子(こうし)は「我十有五にして学に志す、三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳に従う、七十にして心の欲するところに従えども矩を超えず」と言っておられます。十五歳の時に学問でがんばることを志し、三十歳になって基礎ができて自立できるようになった。四十歳になると心に迷うことがなくなった。五十歳になって天が自分に与えてくれる使命が自覚できた。六十歳になったら人の言うことが何でも素直に理解できるようになった。七十歳になると自分のしたいことをしても人の道を外すことがなくなった。このように、最新の科学で分析された「何歳でどの能力がピークになる」ということを孔子はずっと昔にわかっておられたのです。すごいなと思います。

歳をとったからといって、身体的能力や認知能力は落ちるけれども、その他の能力は残っていますし、今からピークになるものがあるということを知っていただけたと思いますので、ぜひ前向きに生きていただきたいと思います。