「~になります」という言葉

斎場での葬儀に行った時のことです。そこでは式場に入る前に、いつも葬儀社の方がワイヤレスマイクを渡してくださるのですが、その時「マイクになります」と言われました。その時「これは既にマイクだけど、マイクになりますって、いったい主語は何だろう?」と思いました。けれども、すぐに葬儀が始まるので、その場で問い返すことはしなかったのですが、「マイクになります」という言葉に違和感を覚えました。

そういえば、これまでにも何度か買い物や食事などを済ませて支払をするときに、店の人から「合計で二千円になります」というような言葉を耳にしたことがあります。

この「~になります」という言い回しですが、やはりどこか変に思われます。そこで調べてみると、これは間違った使い方であることが分かりました。「~になります」の「なる」は、「以前と違う形になる」「前とは異なる状態に変化する」という意味があります。ということは、先ほどの「マイクになります」の場合、何かが変化してマイクになったことになりますし、同じように二千円になったということになります。

しかし、マイクは既に製品としてマイクになったものを渡されただけですし、支払いも合計金額が二千円になっただけで、二千円は二千円のままです。

「なる」を変化させた言葉が「~になります」ですから、「マイクになります」と言われると、「何がマイクになったんだろう」と違和感を覚えるのも自然な感覚だといえます。したがって「マイクです」、また支払いの場合は「二千円です」、丁寧に言うと「二千円でございます」というのが正しい言い方です。

この他にも「入場口はこちらになります」とか、「コーヒーになります」というような言い回しを耳にすることがありますが、こちらも「入場口はこちらです」とか「コーヒーです」が正しい表現です。

ただし、変化が伴うものに対して使う場合は、問題ありません。例えば、「こちらの寺院は、創建から三百年になります」というような表現です。この「なります」は、建てられてから三百年という時間が経過したことを意味しています。そして、これからも三百十年、三百二十年と時間が変化していくので、間違った用法ではありません。

とはいえ、普段何気なく耳にしていると、その言葉がやがて普通に思えるようになってくることもあります。言葉は時代によって変化していくので、かつては「間違い」だとされていた表現であっても、その誤用が一般化して多数派を占めるようになると、やがて容認されるようになることもあります。

たとえば、上司や先輩から仕事で「最近よく頑張っているね」と声をかけられたとき、「とんでもございません」というやりとりを耳にすることがありますが、この言葉は厳密に言うと間違いです。なぜならこの言葉は「とんでも+ない」ではなく、「とんでもない」が語幹なので、正しくは「とんでもないことです」「とんでもないです」という言い回しになります。似たような言い方の「もったいない」を「もったい+ない」に分けると、「もったいございません」と言わないことから、「とんでもございません」が誤用だということが分かります。

ところが、文化庁が2004年に実施した調査では、「とんでもございません」という言い回しに「違和感を覚える」と回答した人は17.8%に過ぎず、68.3%の人が「気にならない」と回答しています。そこで、文化庁の「敬語指針」には『「とんでもございません(とんでもありません)」は、相手からの褒め言葉や賞賛などを軽く打ち消すときの表現であり、現在では問題なとい考えられる』と書かれています。つまり、用法としては間違いであったものが、多数派を占めたことで間違いではなくなったというわけです。

そうすると、「~になります」という言葉も、多数派を占めるようになると、間違いではなくなる日が来るかもしれませんが、やはり個人的には違和感を覚える表現です。だから、もしかすると、思わず「主語は何?」と問い返すかも😅 。

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