2021年12月法話 『「お陰さまで』と年暮れる』(中期)

今年は、秋のお彼岸が終わってから15年ぶりに本堂の大規模改修工事を行っています。

この本堂が建ったのは今から45年前のことで、明治期に建てられた本堂が築後70年を経過し、幾度か補修を重ねてきたものの老朽化が著しかったこともあり、開基70周年を期して建て替えることになり、それまでの木造ではなく新たな本堂は鉄筋コンクリート造りの地下一階、地上二階建てになりました。

 

本堂の大規模改修を行うのは、今回が初めてではなく、建設後三回目になります。

周知の通り、鉄筋コンクリートの建物は、定期的に点検を行い、その都度補修をすることが大切です。

なぜなら、コンクリートの建造物は、コンクリートの「中性化」と呼ばれる現象で劣化症状が発生するからです。

コンクリートの中性化とは、アルカリ性のコンクリートが雨や紫外線に曝されることにより、コンクリート内部のカルシウム化合物が大気中の二酸化炭素と反応し、徐々にアルカリ性を失うことです。

では、中性化するとどうなってしまうのかというと、コンクリート内部の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートがひび割れや剥落を起こしてしまうのです。

さらに、そのひび割れや剥落した箇所から雨水が浸入することで内部の劣化が進行し、それが建物全体に広がってしまうという危険性があります。

 

そこで、これまでに二回補修工事を行ってきたわけですが、一回目は築後17年目の平成5年、二回目は築後30年目の平成18年、そして三回目が築後45年目となる、今年令和3年です。

一回目の時は、本堂の入り口を自動ドア化したり、椅子席にしたりしました。

本堂の入り口が自動ドアになっている寺院は、現在でもそう多くないのではないかと思います。

また、今では大半の寺院も椅子席になっていますが、今から30年前は本堂が椅子席になっている寺院はまれでした。

ちなみに、椅子席にした当初は、読経はそれまでと同じように畳に座ってお勤しめていたのですが、法事でお参りに来られた総代さんが、「自分たちだけ椅子に座っているのは申し訳ないので、是非椅子に座ってお勤めしてください」と言われたので、椅子に腰掛けてお勤めするようになりました。

この他、内陣の天井の装飾や須弥壇等の金箔の張り替えなど、内陣の補修を丁寧に行いました。

なお、本堂の建設から一回目の補修までは、先代住職の父が差配をしました。

 

二回目の時は、本堂の外壁の補修と塗り替えや畳替えを行いましたが、特に力を入れたのは防水処理です。

実は、二回目の補修を行う数年前から、本堂の下陣は台風や大雨などの際、雨漏りをしていました。

鉄筋の建物にとって、雨漏りは劣化を促進してしまうので、速やかに対処しなければならない喫緊の事項です。

業者の方に点検して頂いたところ、幸い雨漏りをしている箇所が判明したので防水処置を施しました。

そのため、本堂は雨漏りをしなくなっていたのですが、二階建てということもあり、鐘撞堂のある屋上をはじめ工事では特に防水処理を重点的に行いました。

そのお陰で、これまで15年の間、一度も雨漏りすることはありませんでした。

 

にも関わらず、今年三回目となる大規模な改修工事を行っているのは、素人目には一見どうもないように思えても、専門の業者の方に点検をして頂くと、随所に「経年劣化」していることがわかったからです。

とはいえ、実は二回目の工事を終えた直後から、「また15年くらい経ったら三回目の工事をしなければならないだろうな」と思っていたこともあり、特に驚いたりするようなことはありませんでした。

経年劣化しているであろうことは、いわゆる「想定内」のことだったので、むしろ「予定通り」といった感じでした。

今回は、前回と同じく建物の全面的な塗り替えと防水処理や畳の表替えなどを行う他、初めて本堂の下陣の壁の塗り替えを行います。

また、本堂の通路の壁の塗り替えや電灯の追加、トイレのパネル交換なども行うことにしています。

 

今度の工事は、大規模な改修ということもあり、足場を組み本堂全体を防護シートで覆っています。

そのため、一目で大がかりな工事を行っていることが分かり、遠くからでもよく目立ちます。

そういったこともあり、先日、少し離れたところから本堂を眺めておられた方が、私が通りかかると「大変な工事ですね」と、ねぎらいの言葉をかけてくださいました。

その時、とっさに出た言葉が「お陰さまで」でした。

 

実は、一昨年、本堂の東側に取得した土地を整備し駐車場として使用していたのですが、大規模改修工事を始めたのとほぼ同じ頃から、その場所に鉄筋コンクリート造り三階建ての納骨堂を建設中しています。

平行して工事が行われていることもあり、まさに「大変」といった感じに見えるようです。

 

けれども、以前から今回の工事に備えて計画的に積立をしてきたので、経費面では全く心配する必要がないこともあり、自身では全然「大変」などとは感じていません。

実際大変なのは、日々工事に携わってくださっておられる方々で、私は工事の進捗状況を見ながら、毎日楽しんでいるところです。

そういったこともあり、思わず「(たくさんの方々の)お蔭さまで」という言葉が、素直に口からこぼれたのだと思います。

そして、その時に思ったのが、今年もいろいろなことがあったけれども、いつも周りの方々の「お蔭さま」で乗り越えてくることができたということです。

毎年、日本漢字検定協会が全国から「今年の漢字」を募集し、年末に発表されその文字が話題になりますが、今年も私にとっては、あれこれあったものの、つまるところ「お陰さまで」の「陰」に落ち着く気がします。