お位牌とは、亡き方の法名を記録した木の札のことをいいます。
お寺でご法事を勤める際に、施主さんがお位牌をもってこられますと、そのお位牌を前方の壇に置いてご法事を勤めます。
法事が終わりましたら、そのお位牌をお返しするのですが、その際にお位牌を指し示し「◯◯(亡くなられた方)を連れて帰ります」とおっしゃられる方が時々おられます。
そのような時に、「お位牌=亡くなられた方」というお考えの方がたくさんいらっしゃるのだなと感じます。
そのお考えは、お位牌の起源に由来しているものと思います。
お位牌の起源は儒教にあるとされます。
儒教では、亡くなられた方を祀る際に、その方の名前や生前の位などを記した木札を用い、そこに亡き方の霊がとどまるとされていたようです。
その木札の風習が仏教に入ってきて、今の位牌となっているといわれますから、その影響があって「お位牌=亡くなられた方」というお考えの方が多いのであろうと思います。
しかし、儒教と仏教はまったく異なる宗教でありますから、お位牌の意味も異なります。
儒教では、亡くなられた方の名前などを記し、そこに亡き方の霊が宿るものとされますが、仏教では、霊が宿るものではなく、亡き方の法名を記録した木の札のことをいいます。
その法名につきましても、誤解が多くあるように思います。
時々、「住職さん!私が死んだらいい名前つけてくれよ!」とたのまれることがありますが、とても困ってしまいます。
そうおっしゃられる方は、法名とは死んでからもらう、あの世での名前とお考えなのだと思います。
法名は仏教徒としての名前です。
仏教徒とは、仏教をひらかれたお釈迦さまを師として、お釈迦さまの教えに沿って生きていくものをいいますから、仏教徒の名前である法名(浄土真宗の法名)にはお釈迦さまの「釋(釈)」の字を一字もらって、「釋◯◯」となります。
さまざまな事情により生前に授かることができなかった方に、ご縁のある住職より葬儀の際に法名が授けられます。
お釈迦さまを師匠として、お釈迦さまがお説きになった真実の教えに沿って生きる道は、間違いなく仏(本当のしあわせのすがた)になる道です。
浄土真宗において「釋〇〇」という法名を記した位牌は、その亡くなられた方の霊が宿るのではなく、その方がお釈迦さまの弟子として生きられたという証であり、今、仏(本当のしあわせのすがた)になっていらっしゃることを表す木札ともいえます。
最後に、浄土真宗では、亡き方の法名などの記録するものとしては、お位牌ではなく、過去帳を用いることを正しいとしています。私の地域では、葬儀はお位牌を用いて勤めますが、四十九日法要を目処に、お位牌に書かれてある情報を過去帳に転記し、過去帳を用いるように勧める寺院が多いです。