落語家の修行ではよく「大きいやかんをつくりなさい」と言われます。
大きいやかんは水がいっぱい入るために沸騰するのに時間がかかります。
けれどもいったん湯が沸いたらなかなか冷めません。
器量の大きな人間になり、そして大きな芸を身につけるようにという例えであると思います。
それからマイナスのイメージを与える言葉はできるだけ使わないよう言われます。
『悪い』を『よくない』と言ったりします。
肯定の否定形です。
意味としては変わりなくても相手に与える印象がまるで変わってきます。
『スル』という言葉を『あたる』と言いかえたりします。
『墨をする』は『墨を当たる』、『すり鉢』を『あたり鉢』と置き換えたりします。
居酒屋で『するめ』のことを『あたりめ』と言いますが、同様の趣意です。
言葉というのは不思議なもので、マイナスイメージのものよりプラスのイメージのほうが絶対に良いのです。
いろいろと困難なことに遭遇して落ち込んでいるときにも信頼できる人の「大丈夫ですよ」の一言で、心が安らぐこともあります。
例えば、医師が患者に接するときに患者の気持ちに寄り添って診断結果を伝えることで、患者は安心し、その結果、自己治癒力が増すということを聞いたことがあります。
風邪の場合などビタミン剤しか処方しなくても、それでも患者は安心して自己治癒力が増し、病気が快方に向かうそうです。
「病も気から」ということなのだと納得させられます。
・喋りが上達するにはまず聞く力を養うことが大事
「しゃべりが上手くなるにはどうすればよいのでしょうか」とよく聞かれますが、噺家をめざす修行中には師匠から、できるだけいろいろなものを聞きに行きなさいと言われます。
映像など見るものではなく、耳から入ってくるものだけを聴いて耳を養い鍛えなさいと言われるのです。
アナウンサーの方々も同様の指導を受けるようです。
しゃべることを職業にしようという人たちは、聞く力を養うことが大事だということです。
どちらか一方だけではいけないわけです。
何でもそうです。
呼吸もそうです。
入れたら出す、聞いたら話すというのはいわゆる細胞の新陳代謝と同じです。
一般の皆さんも講演会などで聞くことをしたら、次は自分で誰かに話すことが大事です。
そして、話すときには少しだけ上のことを表現するように努めるのが大事です。
あまり無理なことは言わなくてもよいので、少しだけ上をめざした表現をします。
すると気持ちが高まり、良い効果が出てくるのです。
良い「気」が発生し、継続することでどんどん集まってきます。
「笑いは気から」と申し上げましたが「気」はいろいろなところに出てきます。
どこの「気」をどう捉えていくかが大切で、その一つのチャンネルのようなものが言葉です。
辛いと感じるときには楽しいチャンネルに変えればよいのです。
もちろん言葉に出さなくても通じる時もありますが、言葉に出した方がより分かりやすい、伝わりやすいということです。