まるい丘と丘が重なりあっている。
丘の赤松の蔭からは、川原焼きの竃(かま)の煙が、まっすぐに立ち昇っていた。
それを見ても、風のないのがわかる。
蝶の群れが、逃げて着た。
キキキ、キッ、と軌(わだち)の音がどこからかしてくる。
見ると、日永(ひなが)の遊山に飽いたような牛が、一台の輦(くるま)を曳いてのろのろと日野の里を横に過ぎて行く。
「七郎っ。
――七郎よっ」
輦の中で、少年の声がした。
武家の息子であろう、ばらっと、乱暴に、簾(れん)をあげて、首を外へ出した。
「どこへ行った、七郎は?」
牛飼は、足をとめて、後ろの道をふり向いた。
郎党ていの青侍が三名、何かふざけながら、遠く遅れて歩いてくるのが見える。
「ちッ」
と、輦の上の少年は、大人びた舌打ちをした。
赤い頬と、悪戯ッぽい眼をもって、
「――わしを、子どもと思うて、供の侍どもまで、馬鹿にしおる」
両方の手を、口のはたら翳(かざ)して、おうーいっと、大声で呼んだ。
その声に、初めて、気がついたように、郎党たちは、輦のそばへ駈けてきた。
「馬鹿っ、馬鹿っ、何をしてじゃっ」
少年は、頭から怒りつけて、それからいった。
「あれ、あの丘の裾(すそ)に、うずくまっている小童(こわっぱ)があろう。
――怪しげなことしておるぞ。
何をしてるのか、すぐ見てこい」
「え?……どこでございますか」
七郎とよばれた郎党は、少年の指さす先をきょろきょろ見まわした。
「見えぬのか、眼がないのか。
呆痴(うつけ)た奴のう。
……あそこの、梅か、杏か、白い花のさいておる樹の下に」
「わかりました」
「見えたか」
「なるほど、童(わらべ)がおります」
「さっきから、ああやって、じっと、うずくまったままだぞ。
けったいなやつ。
何しているのか、見とどけてこい」
「はいっ」
七郎は、駈けて行った。
白い花は、梅だった。
後ろからそっと近づいて見ると、まだ、四、五歳ぐらいな童子が、梅の老樹の下に坐って余念なく、土いじりをしているのである。
(やっ?)七郎は、眼をみはった。
童子の前には、童子の手で作られた三体の仏像ができている。
まぎれもない弥陀如来のすがただ。
もちろん、精巧ではないが、童心即仏心である。
どんな名匠の技術でも生むことのできないものがこもっている。
それだけなら七郎はまだそう驚きはしなかったろう。
――だが、やがて、童子は、土にまみれた掌をあわせて、何か念誦(ねんず)しはじめた。
その作法なり、態度なりが、いかにも自然で、そして気だかかった。
ひら、ひら――と童子のうない髪にちりかかる梅の白さが、何か、燦々(さんさん)と光りものでも降るように七郎の眸には見えた。
(凡人(ただびと)の子ではない)こう感じたので、彼は、気づかれぬうちにと、足をめぐらして、腕白な主人の待ちかまえている輦のほうへ、いそいで、引っ返してきた。
「やい、どうあったぞ?」
まるッこい眼をかがやかせて、少年は、輦(くるま)の上から、片足をぶら下げて、すぐ訊いた。