「死を食べる」(上旬)知らないうちにシカに餌付けしていた

ご講師:宮崎学さん(自然界の報道写真家)

私は自然界の報道写真家と言われていますが、多くの人が知らない自然について、写真を使ってお伝えしたいと思っています。

1枚の写真からどれほどの言葉を紡ぎ出せるか。

そう考えて、写真を撮っています。

「死を食べる」

ということを普段考えもしませんが、私たちは

「死」

を食べて生きています。

現代では、そういう汚い世界は見たくないという風潮がありますが、あらゆる生物は、誕生して必ず死ぬんです。

仏教に九相図という、死体が9つの課程を経て朽ちていく世界が描かれた絵があります。

それは、どれだけ美人であっても、死後は犬やカラス、ウジに食われるむごい世界があることを教える絵なんです。

私はそれを見て

「現代人は、思いっきり忘れているものがある」

と思ったんです。

知らなきゃいけないことなのに、知らないことが多すぎると思います。

これだけ人間が忘れ物をしているのなら、やっぱり伝えなければいけません。

人間は、自然からのバイオマス(生物由来の資源)を大量に吸い上げていながら、全然自然界に還元していません。

それを何とか分かってほしいと思って写真を撮り始めました。

自然界には

「死」

がないと、生きていけない生物がいっぱいいるんです。

生物が死んでくれないと、自然界はなめらかに回っていかない。

幸せなこの現代も、いろんな生物の助けがあって生きているんです。

ニホンジカ、サル、イノシシ、クマという、日本を代表するこの四大動物は、数が減っていると言われていますが、実はむちゃくちゃ増えています。

じゃあ、なぜ増えているのかというと、いろんな環境の変化があるんです。

そこには、私たち人間が非常に深く関わっているんです。

そこに意外と気付いていないのが現代人で、動物が増えるのも減るのも、私たち人間の社会生活とリンクしているんです。

雪道を走るために生まれたスパイクタイヤが使用禁止になって30年経ちますが、それに代わるスリップ対策として、全国の自治体は塩化カルシウムという人工の塩を道路にまくようになりました。

長野県でも、すさまじい量を使っており、その人工の塩が間接的に動物たちに影響を与えているんです。

高速道路では、橋の上は特に風が強く温度変化が激しいので、大量に塩化カルシウムをまきます。

すると、この人工の塩が橋の下に落ちています。

そして落ちた所を見ると、シカの足跡があるんです。

シカは胆嚢(たんのう)がないので、消化にはバクテリアが欠かせません。

このバクテリアがすごく塩分をほしがるため、塩分が大量に必要なんです。

つまり、人間が無意識に餌付けをしていることになります。

私は許可をもらって、その橋の下にカメラを設置し、動物を観察しました。

すると、約80頭のシカが来ていました。

しかし、この事実は地域住民すら知りません。

これはチェーンを巻いて運転すればいいことなんですが、便利さやスピードを求めて半ば強引に雪を溶かしているのが原因です。

その結果、シカを増やしているんです。

これをほとんどの学者や地域住民も気付いていません。

私は、写真家なので、現場をいつも見て、今の時代に自然界から送られてきているサインをどう読んで写真を撮るかを考えているんです。