ハートフル講話録 2月「大河の世界と薩摩の宗教史」(前期)大河ドラマで描かれた歴史の光、描かれなかった影

ご講師:岩川 拓夫 さん(仙厳園学芸員、鹿児島国際大学非常勤講師)

昨年、NHK大河ドラマ「西郷どん」が1年間放送されました。鹿児島ロケは離島を含めて1か月を超え、私が担当した仙巌園では延べ10日間、相撲のシーンは3日間、朝7時半から夕方5時過ぎまで様々なスタッフや役者さんたちが協力して撮影されました。「西郷どん」は、ドラマを通じて明治維新の薩摩藩の活躍の光の部分を描いた作品だったと思います。

明治維新は光の部分だけではありません。例えば、京都では幕府の恩恵を受けていた中小の公家が明治維新以降、生業を放棄せざるを得なくなり、その結果、古代以降続いていた伝統芸能や伝統文化が途絶えてしまいました。これは明治維新の影の一面です。今年は「廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)」から150年ですが、この廃仏毀釈も影の一面です。明治2年「神仏分離令」が発令されると薩摩藩では1616のすべての寺院が廃され、2966人の僧侶が還俗しました。その結果、寺院に関する江戸時代以前の記録もほとんどなくなりました。文化財の面でも、鹿児島県は様々な歴史がありながら国宝に登録されているのは1点だけで、照国神社にある室町幕府の将軍から頂いた太刀だけです。他の都道府県の事例では、国宝はだいたい寺院などに伝わった進物の類や宝物の類などです。そういうものが鹿児島にもあったはずなのですが、廃仏毀釈で行方不明になり、失われてしまいました。