2020年12月法話 『生かされて過ぎゆく年にありがとう』(中期)

早いもので、今年も残り少なくなってきました。毎年、公益財団法人日本漢字能力検定協会が、その年を象徴する漢字一文字を募集していますが、今年を振り返って思い浮かぶのは、コロナ禍から「禍」とか、大雨や台風などの自然災害から「災」といった文字だという方が多いのではないでしょうか。

特に新型コロナウイルスの感染拡大の影響は広範囲に及び、今夏予定されていた東京オリンピック・パラリンピックの開催が延期になった他、鹿児島でも今秋予定されていた国体が2023年に延期になりました。さらに、甲子園球場で開催される春の選抜高等学校野球大会および夏の全国高等学校野球選手権大会、高校スポーツ最大の祭典とも形容される全国高等学校総合体育大会など、多くの全国大会が中止になったり、プロ野球・サッカー・大相撲なども無観客や人数制限、試合数の縮小などを余儀なくされたりしました。

また、個人的には、関わっていた九州地区保育研修鹿児島大会も延期を余儀なくさせられましたし、前回参加できなかった中学の同窓会が5年ぶりに計画されていたのですが、こちらは中止になりました。

結婚披露宴も延期、中止が相次いでいると報じられていましたが、その煽りを受けて、同窓会の会場となっていた結婚式場も今月末で閉館されることになりました。おそらく、旅行に行けなくなったとか、忘年会が中止になったなど、あまり明るい話題がなかったというのが大半の方の印象かと思われます。

振り返れば、年が明けて間もなくの頃、中国で新型コロナウイルス感染症が流行しているというニュースが報じられた時点では、流行している地域が中国ということから、かつて中国国内でSARSコロナウイルスが流行した時と同じように、今度も日本国内で感染者が出ることはないだろうなと思っていました。また、今にして思えば不謹慎なことなのですが、少し咳が出た時など、周囲の人に「コロナではないよ」といって笑いをとったりしていました。

ところが、今回の感染症の流行は中国国内だけに止まらず、またたく間に世界各地に感染が拡大し、いたるところでウイルスが猛威を奮いはじめました。日本では、2月に入った時点では、まだどちらかといえば警戒感は比較的薄かった印象ですが、2月末に「3月から学校は前倒しで春休みに入る」ということが報じられると、世間の様相は一変してしまいました。

前年の12月から父が入院していたのですが、2月下旬までは「検温、消毒、マスク着用」という条件はあったものの、家族の面会は認められていました。ところが、学校の休校宣言と歩調を合わせるかのように、院内感染対策として家族の面会も一切禁止されてしまいました。そのため、父は5月の中旬に往生の素懐を遂げたのですが、3月以降会えたのは、病院から老健施設に移ると時と、老健施設から介護付き老人ホームに移った時の数回だけでした。

また、春以降は検査で陽性反応が出ても大半の人が無症状であったりして感染経路が分かりにくく、著名人が相次いで新型コロナウイルスに感染して亡くなったり、未知のウイルスであるため薬やワクチンが開発されていなかったりするため、言いようのない漠然とした不安が人々の心を覆うようになりました。さらに、陽性反応が出た途端、症状の是非に関わらず隔離されるだけでなく、感染した人やその家族、学校、職場などが、匿名者によっていわれのないバッシングを受けるといったことが少なからずあったりしたため、 周囲に及ぼす影響への大きさが一層ウイルスへの人々の恐怖心をかき立てた感があります。

最近になって、ようやくワクチンの開発が報じられるようになり、やや明るい兆しが見えはじめてはいますが、ワクチンはこれまでと扱いが異なり、緊急性を要することから、先ずは投与することが優先されています。そして、懸念されるワクチンの副作用については、使用していく中で散見されるようになるのではないかと言われているので、まだなかなか「安心」というわけにはいかないようです。そもそもワクチンとは、病原体から作られた無毒化あるいは弱毒化された抗原で、体内の病原体に対する抗体産生を促し、感染症に対する免疫を獲得するものです。簡単に言うと、ワクチンは薬ではなく体内で抗体を作るものなので、感染しても重篤化を防ぐ効果は期待できますが、ウイルスに全く感染しなくなるというわけではありません。新型コロナウイルスと同じコロナウイルスであるSARSも、未だに研究段階で治療法は確立していないので、新型コロナウイルスについても感染しても重篤化を防ぐ手立てが見えてきたといったところでしょうか。

この他、近年は地球の温暖化現象の進行により、異常気象が当たり前のようになってきています。ここ数年、日本国内では大雨や台風による被害が深刻で、毎年のように堤防が決壊して、町ごと水没するような甚大な被害が発生しています。

今夏、私の住む市でも、一年の降水量の半分に匹敵する雨量がわずか一週間で降り、そのことが全国ニュースで報じられました。これまで市内では、床上浸水とかあまり聞いたことがなかったのですが、今年は2か所で大雨による被害が出ました。それに加えて、町内を流れる川(一級河川)も増水したため、私の住む地域には避難勧告が出されたりもしました。

そんな中に今年も暮れようとしていますが、今ここにこうして我が身のあることを思うと、まさに「生かされて過ぎゆく年にありがとう」というのが、正直な思いです。