法務省少年篤志面接委員 桂 才賀 さん
これから紹介させていただくのは、普通の家庭の普通に学校へ通っている子どもたちが、親や兄弟、先生、あるいは社会の人に不満をぶつけた川柳です。
これはもともと、栃木県足利の生活安全課長さんが捕まえてきた暴走族に書かせたのが元なんです。
普通所轄の刑事さん、課長さんだったら、大きな声で恫喝して「しばらく泊まってってもらうか」なんてことを言って脅かすんですけど、この栃木の生活安全課長さんは大きな声を出すこともなく、なんとこんなことをさせたんです。
「お前らの父ちゃん、母ちゃん、先生の気に入らねぇとこ、書いてみな」って。
「変なことを言うおまわりだな」なんてね。
言われて書く連中、みんな暴走族ですよ。
警察の取り調べ室で「なんだい、父ちゃんの? 母ちゃんの? 先公の悪口書きゃいいのか? そんなのいくらでも書いてやるよ」と言って書いた。
これをそのままじゃ長ったらしくてシャキッとしませんから、この刑事さんが川柳の作り方を教えたんですよ。
言葉が短くて端的ですから、一番インパクトがある。
川柳のようにまとめなさい、と。
「お前ら言葉詰めんの名人じゃねぇか」「おお、そうかそうか。
その要領で短くすりゃいいのか」ってね。
若いのはなんでも言葉詰めるからね。
それで川柳ということも自然に教えたわけです。
川柳を詠う暴走族、笑っちゃうでしょ。
その出来上がった、親や教師に対する不満がテーマの川柳。
それをこの課長さん、これ見よがしに自分のデスクに放り投げといた。
ある人の目につくように。
ある人ってのは誰だと思いますか。
時折少年課に来る教育委員会の方なんです。
この教育委員会の方の目にふれさせようと思って、これ見よがしに置いといた訳です。
自分の方から教育委員会に持っていけば話は早いんですけどね。
それよりも向こうから食いついてくるのを待った訳です。
「なんだ課長、これ面白いな。
暴走族が。
あれま。
これいい。
これはいいぞ。
よし、ほんじゃな、うちらの普通の学校に通っている普通の子にも書いてもらうべ。
作ってもらうべ」となったんです。
普通の学校へ、普通の家庭から通ってくるごく当たり前の子ですよ。
お父さん、お母さん、学校の先生の悪口がテーマです。
当然、先生の悪口を書くから、名前を書いたら本音で書けない。
だから「名前は書かなくていいよ。
学校名も何も書かなくていい。
そうすりゃ本音でかけるだろ。
誰の作品かわからないからね」と言うんです。
ところが、同じ年代ですと同じような作品が山のように出てきますから、それゃ俺のだよ、いや俺のだよってことになると困りますんで、配る紙には番号がふられた。
ただこれは学校当局も教育委員会も控えは取らないルールです。
だから何番から何番までがこの学校、何番から何番までがこの中学校って、そんなふうにしちゃたら嘘だから、もうめちゃくちゃにして配りました。
当人しかこの番号はわかりません。
本になったらその番号だけ憶えておけば、自分の作品番号がすぐわかる、そういうふうにしたんです。
そして出来上がって、一冊の本になりました。
これを各学校の教室一クラスに一冊ずつ、黒板の所へぶらさげて、子どもたちがいつでも読めるようにした。
「気に入った作品、選んでください。
いくつ選んでもいいです。
自分の作品選んでも、もちろんいいです。
番号だけ書いてください。
気に入った作品の番号書いて、校長室前のダンポールの箱へ放り投げといてください。
いついつ何時限目までです」
期限を切って回収して、教育委員会が作った最高トップ。
栃木足利の子どもたち全部が、この作品に一票投じたんじゃないかっていうのがあるんです。
あとでご紹介しますが、その前に一冊出来上がった子どもたちの川柳の中から、私が気に入ったものをご紹介します。